逗子のいきもの写真

ホタルカズラ ムラサキ科ムラサキ属 Lithospermum zollingeri A.DC.

 

 みなさんはホタルカズラという植物をご存知でしょうか?園芸植物としては「ミヤマホタルカズラ」という名前で出回っていますが、園芸のものは花が左の写真よりもっと濃いブルーで、葉っぱもやや小さめです。今回紹介するのはもちろん、野生のホタルカズラです。花は4月から5月ごろにかけて咲きます。逗子では比較的よく目にします。裏山の林のなかを少し歩けば、ほとんど確実にお目にかかれます。わりとありふれたしょくぶつなんですね。

 ところが、我が常識は他人の非常識ではありませんが、このホタルカズラは神奈川県内ではなぜか丘陵地を中心にふつうにみられるものですが、他の地域ではまれな植物であることが多いのです。

 日本での分布は北海道から沖縄までとされていますが、北日本で多く、西のほうへ行くにつれて少なくなっています。関東地方では絶滅危惧種として指定されているのは東京都や埼玉県、群馬県が該当し、日本海側では新潟、富山、石川、鳥取、島根と続き、西では愛知、岐阜、京都が該当し、九州では長崎、大分、宮崎、鹿児島などが実態不明も含めて絶滅が危惧され、佐賀県では絶滅してしまったようです。

 そんなホタルカズラですが、茎は横に這うように拡がり、花をつける茎を立ち上げて高さ10センチ前後のあたりに空色の美しい花を咲かせます。この花のようすを蛍が光るようすに見立てて名前が付けられたといわれます。

 比較的乾燥した尾根付近などに多く、ほかの湿潤な環境を好む植物との競合からは距離を置いているようにも見えます。ほどよく遷移した良好な環境の林での遭遇が目立ちます。

 アズマネザサが繁茂した林では見られなくなるので、ササには少しおとなしくしてもらいたいです。もっともササは繁茂しすぎると数十年に一度一斉に開花して開花後一斉枯死し、自ら衰退する不思議な生態が知られていますが、そんな愚かな老ササの振る舞いの巻き添えになって、消滅するようなホタルカズラであってほしくないと切に願います。

(2020.2.7)


ヒバカリ ナミヘビ科ヒバカリ属 Hebius vibakari vibakari (Boie, 1826)

 

ヒバカリという名の蛇がいます。「噛まれたら命はその日ばかり」といわれたのが由来だそうですが、その名前に反してヒバカリには毒がありません。

 

平地から低山の樹林内に生息しており、小魚やミミズ、トカゲ、カエル(オタマジャクシ)などを好んで捕植するため、水辺を活動場所としていることが多いようです。逗子では比較的目にする機会が多いヘビといえそうです。池子の森自然公園や第一運動公園、名越緑地など水辺と樹林がセットになった環境では生息数が多いのではないかと思っています。

 

逗子は人間にとっては海があり、また山が私たちの暮らしのまじかにあり、とても環境が良いところです。それはこのヒバカリにとっても同様で、森と水辺が揃った場所で、適度な湿度が保たれている環境でひっそりと暮らしています。

 

性格は温厚でほとんど噛みついてこないといわれ、顔つきもおとなしくとてもかわいいということで人気があります。体調は40㎝程度、小型でヘビのなかでもダントツの可愛さだと評しているネットサイトもあるくらいです。

 

逗子には本州産の全種(8種類)の生息記録があります。マムシ、ヤマカガシ、シマヘビ、アオダイショウ、ジムグリ、シロマダラ、タカチホヘビ、そしてこのヒバカリです。ヘビがいるということは、ヘビが餌として食べる生きものが豊富だということです。餌動物は魚から昆虫、ミミズ、カエル、トカゲなど多様です。それだけ生きものの多様性が高いということは、それを養えるだけの自然がまだまだ残っているということです。

 

わたしたちにとって、山の緑は大切ですが、緑だけがあればよいわけではありませんね。その緑はたくさんの生きものたちを育んでいて、それが生態系といわれ、そのような命や物質が循環した自然が健全な自然で、そこにこそわたしたちは心地よさを感じるのではないでしょうか。(2019.8.23)


ハマヒルガオ ヒルガオ科ヒルガオ属

Calystegia soldanella

 

 ハマヒルガオは名前のとおり海岸に生育する多年草です。みなさんなじみが深いアサガオの仲間ですので花はなんとなく見慣れた感じのつくりですが、色合いがなんとも日本的で控えめな淡いピンク色で清潔感、清涼感あるとても可愛らしい花です。葉は常緑で厚く、ギラギラした日差しが照りつけて灼熱地獄となった砂浜でもまったく平気です。

 日本全土の砂浜海岸にはありふれていて、どこにでも見かけるものですが、逗子海岸ではごく一部のわずかな場所にしか生育していません。砂浜の客土砂の投入や真夏の海の家、各種海岸でのイベントなどによる影響が考えられますが、浸食により砂浜の奥行きが昔より狭くなった?のが大きな要因でしょうか?

 住宅や道路が迫っている逗子では致し方ない状況です。

 わたしたちは人間の活動を否定するつもりは毛頭ありません。自然保護は人間のためにやるものですから、人間の発展的な活動を抑えてまで保護を訴えるのは人間の存在を否定することになってしまいます。

 しかし、生活域が砂浜で、そんな他の植物が入り込めない過酷な環境に活路を見出して自身の植物体を多少の暑さではへこたれない体に進化させてきたハマヒルガオやそのほかの海浜植物の生き方を知ることは、人間の活動をこれまで以上に豊かに発展させていくためには、まわりまわってとても役立つことだと思います。

 逗子海岸で見かけたら、そっと観察してみてください。ハマヒルガオは海浜植物のなかでももっとも海岸線に近い最前線に群落をつくる植物群のひとつです。小さくても力強く暑さや潮に耐えています。その健気な姿をわたしたちに重ねてみると、どうですか、とても愛おしく思えてきます。

 養老孟子さんではありませんが、これが「知る」ということなのです。

これを知れば、たとえ海岸でイベントしようと、客土砂の投入があろうと大丈夫。ハマヒルガオについては、気を使って聞くことがなかなかできないわたしたちのご近所さんの人生よりその生き方を知ることができているのですから。(2019.5.27)


ホトトギス ユリ科ホトトギス属

Tricyrtis hirta

 

紹介するのは逗子市の花として親しまれているホトトギスです。逗子市内では全域の少し湿った岩壁などにみられます。街なかにあるのは栽培種なのか自生なのかよくわからないものもあるようです。

 

花は秋に開き、茎上部の各葉っぱの付け根から花柄をだしていくつも花が並ぶ姿が目を惹きます。赤紫色の斑点が特徴的な花被片は6枚が斜めに立ち上がり(写真参照)、放射状に展開して楽しげな雰囲気を醸し出しています。

 

茎や葉っぱには白い毛が密生してふわふわとした印象を感じさせます。逗子にはこのホトトギスのほかに、よく似た仲間が生育していて、名前をヤマホトトギスといいます。ヤマホトトギスは茎や葉っぱにほとんど毛がありません。花のかたちもホトトギスと比べても少し違っていて、紫色の斑点がある花被片は下向きに強く反り返ります。この点が大きく違うので見分けるのは簡単です。

 

ホトトギスやヤマホトトギスは樹林があるところに生育しています。樹林がないと恐らく生きていけない植物です。ホトトギスはさらに湿った岩壁を好みますから、そういう環境がなくては生きていくところがなくなってしまいます。逗子では樹林もあるし、湿った岩壁もたくさんあります。けれども、必要以上に土砂災害予防のための擁壁で岩壁斜面を覆ってしまうと生きていく場所を奪ってしまいます。そんな環境も大切なんだなと、逗子の花ホトトギスに思いを馳せながら感じていただけたらと思います。(2018.11.24)


アオジ スズメ目ホオジロ科

Emberiza spodocephala

 

逗子では越冬しにやってくるアオジ。10月ごろに渡ってきて林縁の藪でよく鳴き声が聞かれます。

チッ、チッ、と細い声で鳴くので気づきます。

 

ところが、とても警戒心が強く、人をみるとすぐさま藪のなかに隠れてしまうのでなかなか姿をみる機会がありません。じっとしてしばらく待っていると姿を現してくれることがあるのですが、少しでも物音を立てたり、大きな動きをしてしまうとすぐにまた隠れてしまいます。

 

アオジは冬のあいだはおもに植物の種子を食しているようで、越冬するには、見た目は雑然としていてもこうした藪の存在と、きれいに刈られてしまわないで、餌となる種がきちんと実をつけるまで残っている草地が必要なのです。

 

逗子は住宅の周りにも林が多いですし、その縁には藪もあります。アオジにとっては越冬しやすい地域のひとつではないでしょうか。地味に見えますがとってもかわいい小鳥です。

(2018.11.24)